臆病者で何が悪い!
ニューヨークで一番過ごしやすい季節と言われる、秋になった。
夏の暑さが過ぎ去り、厳しい寒さがやって来るまでの、貴重な期間。
セントラルパークの木々が色付き始めた。
まだ一人で暮らしていた頃は、公園の木々にだいぶ慰めてもらっていたけれど、
今は、それ以上に心癒してくれるものが、家で待っていてくれる――。
マンハッタンのアッパーイーストサイドと呼ばれる地区にあるアパート。
時間のない中急いで決めた部屋で、それも、その時はまだ沙都と暮らすことになるとは思っていなくて。
沙都と別れたばかりの、傷心真っ只中で決めた部屋なのだ。
このエリアはかなり家賃が高い。
一人暮らしとなれば、広い部屋など借りられるわけもなく。
studioといわれる、ワンルームの部屋だ。
玄関を開ければ、すぐに広めの部屋が一部屋あるだけだ。
二人で暮らすには、正直言うとかなり狭い。
でも、
『常に眞の近くにいられるから、この方がいい』
なんて可愛いことを沙都が言うから、もう、部屋なんてどうだっていいと思える。
愛があれば、部屋はむしろ狭い方がいい。
確かに、いつも沙都に触っていられるし――。
「沙都、ただいま――」
なんて、帰宅早々浮かれまくりながらドアを開けるも、しんとしている。
あれ――?
いつもなら「おかえり」と声が帰って来るはずなのだけれど、沙都の声が聞こえない。
東京にいた頃とはまるで違う、人間らしい生活。
まともな時間に帰宅できる。
それが何より嬉しかった。
「沙都?」
返事のないことを不思議に思いながら、部屋へと足を踏み入れる。
「沙都――」
ソファの前のローテーブルに突っ伏している沙都の姿が目に入った。
部屋の壁に掛かる時計は、午後7時過ぎをさしている。
まだ、こんなに早い時間なのに、寝てるのか――?
そっと沙都の傍に近付く。
可愛い口を少し開けて、ぐっすり眠っていた。
よっぽど疲れているのだろう。
それも無理はない。
9月から通い始めている語学学校、見知らぬ土地での新しい生活。
沙都のこれまでの生活が一変したのだ。
言葉だってまだままならなくて。
10月下旬の今、気を張っていた疲れが出て来る頃だ。