臆病者で何が悪い!



沙都の通う語学学校には、入学前に一度一緒に来たことがある。

でも、それ以来だ。

マンハッタンの中心にあるビルの前に立つ。
エレベーターに乗り14階へと来た。


そこには受付らしきものがあり、その手前にちょっとしたラウンジがある。

そこで座って待っていてくれと沙都には言われていた。

でも、どんな雰囲気でクラスメイトと過ごしているのか、見てみたい。
受付にいる女性には、曖昧な笑みを浮かべてとりあえず会釈をしておいた。

そして、怪しくならない程度に受付の奥の様子をうかがう。


出来れば、スティーブとクラスメイトと共に出て来てくれないだろうか。


そうすれば、俺が沙都の夫だと奴らに知らしめることができる。
それが目的で来たんだし。

すると、廊下の奥から人の声がし始めた。


(※ここから、英語の会話も入りますが便宜上、すべて日本語でお送りします。" "の会話は原則英語です)


「あっ、眞!」


いち早く俺に気付いた沙都が声を上げる。
俺も、優しく微笑み軽く手を上げた。


"サトの旦那さん?"


沙都の隣を歩いていた長身で体格の良い男が、沙都の耳元に背をかがめて聞いている。


近いぞ。


すかさずそう思う俺は、大人気ない。
でも、笑みはなんとか保つ。


"はい"


沙都が少し頬を染めて頷いていた。


何を頬なんて赤くしてるんだ。


その男が笑顔になって俺を見て来た。


"はじめまして。担当講師のスティーブ・テイラーです"


俺の前に歩み出て来ると、人の良さそうな笑顔で、日本人の俺に気を使ったのかゆっくりとした言葉で挨拶をした。
品の良さを身に纏い、非常に感じの良い男性だった。
その感じの良さに、またもなんとも言えない気分に。


"はじめまして、生田眞です。妻の沙都がお世話になっております"


俺も極めて紳士的な態度で挨拶を返した。


"これはこれは素晴らしい発音で。失礼しました"


急に会話がスピードアップした。


"いえ"


そんな俺とスティーブの会話を見届けた沙都が、隣にいた女性たちにたどたどしい英語で俺のことを紹介すると、突然、中国語や韓国語が飛び交った。
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