臆病者で何が悪い!


沙都のクラスメイトだろうか。
韓国語と中国語らしいということは分かるが、何を喋っているかまでは分からない。

やたらと笑顔を向けてくれるので、とりあえず同じように笑顔で”こんにちは”と返しておく。
そうすると、なぜかその女性たちが喜んでいた。


”生田さん、ホームパーティー、ぜひいらしてくださいね。妻とお待ちしていますよ”


「えっ?」


スティーブが俺に向けた言葉に、思わず日本語が出てしまう。
いろいろよく理解できず、沙都に目配せをする。


「この前話したでしょ? クラスメイトでスティーブ先生のお宅でホームパーティーするって」

「それはもちろん覚えてるけど、でも、どういうことだ? 俺も? それに妻って……」


俺は、何か勘違いをしているのか――?


「言わなかったっけ? 生田も一緒にって言われてるし。夫がいるって言ったら、当然のごとくそういうことになったよ?」

「聞いてねーよ!」


確かに。こっちでは、パートナーがいれば同伴するのが普通だったりする。

でも、沙都は俺も一緒になんて一言も言ってなかったから、沙都一人で出かけていくのだと思っていた。


「え? だって、私言ったよね。『せっかくの休みにごめんね』って」

「いや、あれは、せっかくの休みに俺を一人にすることを詫びているのかと……」


一人頭の中でぐるぐるとする。


”もちろん、来ていただけますよね?”


スティーブが俺に笑顔でそう問いかけて来た。
今度は心の底から彼が感じの良い人に見える。


”はい。もちろん、おうかがいさせていただきます。お招きありがとうございます”


なんだ。
ホーム合コンじゃなかったのか。


それに、スティーブに奥さんがいたとは。

独身だとも結婚しているとも沙都は言わなかった。

なのに、勝手に男と聞いて独身だと決めつけるとは、俺もどれだけ余裕がないんだか。

そんな自分に呆れて笑うしかない。


沙都のことになると、いろいろと、俺の頭の中は取っ散らかってしまうらしい。


でも――。

それもそれで仕方がないとも思う。
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