臆病者で何が悪い!
それは、つまり、沙都が可愛くて仕方がないから。
結婚した相手が、生涯を共にする相手が、そんなにも愛せる人だということは俺にとってどれだけ幸せなことだろう。
もしかしたら、こんな感情を知らないままに、誰かと結婚してしまうことだってあったかもしれない。
でも、俺はこんなどうしようもないほどの感情を知って、こうして最高に愛している女を手に入れることが出来て。
それなら、少しくらいの嫉妬も、苦しみも、どうってことない。
すべて沙都といられる幸せに変わる。
いくらだって、翻弄されてやろうじゃないか。
「眞、じゃあ、帰ろうか」
講師やクラスメイトとの別れの挨拶を済ませて、沙都が俺に笑顔を向けた。
「ああ」
その手のひらを握りしめる。
彼女の指、一本一本が愛おしい。
「何、食べたい?」
「そうだな。この前見かけてよそうだったあの店、行ってみようか?」
二人で手を繋いで歩く。
一緒に食事をして、他愛もない話をして。
その食事が美味しければ、美味しいと言って笑い、いまいちだったら共に顔をしかめて。
そして、同じ家に帰る。
そんな時間が愛おしい。
二人で暮らす部屋には、結婚式の日に取った写真が飾られている。
沙都らしい、ほとんど装飾のないシンプルなウエディングドレスを着て、その隣に俺が立ち、両脇に俺たちの両親と、それぞれの姉と妹と。
皆が皆、飾り気のない心からの笑顔で写る。
写真館で改まって撮ったようなものではないからかもしれない。
この写真を姉貴に送ったら、さっそくメールが来たのだ。
(『あんた誰』ってくらい、笑顔だね(苦笑))
『苦笑』ってなんだ。
俺が心の底から笑ったら悪いのか。
確かに、姉貴には見せたことのない表情だろう。
いや、それどころか、俺史上一度もない笑顔だったかもしれないな。
本当はそんな自分の顔を毎日見るのは恥ずかしいけれど、部屋に飾るならこの写真が絶対にいいのだと沙都が言い張った。
まあ、いい写真ではあるよな――。
その写真立てを見れば、改めてそう思う。
この先、たとえどんなに沙都と喧嘩してしまっても、この写真を見ればこの日の自分を思い出せてくれるだろう。
「今度のパーティー、何を持って行くか、相談に乗って?」
「もちろん」
あれこれと一人悶々とすることもなく、心からの笑顔を沙都に向けた。