臆病者で何が悪い!


「――眞ってさ、やっぱり、カッコイイんだね……」


ベッドに入り明かりを消すと、沙都がひとり言のようにそう呟いた。


「なんだよ、急に」


寝返りをうち、沙都の方に身体を向ける。


「今日、学校で。クラスメイトの女の子が眞のこと見て、ものすごーくきゃあきゃあしてたから。『サトのダンナサマ、カッコイイ。日本のゲイノウジンか』って……」


その変な日本語の喋り方はさておき、ぶつぶつと面白くなさそうに話す沙都に、俺は対照的に面白くなる。


「なるほど……。それで、騒いでいたのか」


でも、そんな俺の気持ちは表に出さずに、あくまでなんてことないように言葉を返す。


「眞のイケメンぶりは、万国共通、ワールドクラスだったんだね」

「なんだ、それ」

「あっ、もしかして……」


沙都が目を見開き、俺の腕を掴んで来た。


「こっちの職場でも、女性スタッフに色目使われてるの?!」


おいおい、今頃そんなことを聞いて来るのかよ。俺がこっちで働き出して何か月経ってると思ってるんだ。


「こっちの職場でもって、俺は別に、あっちでもこっちでも女に言い寄られたりなんかしてないけど」

「何言ってるのよ! 日本では、宮前さんに言い寄られてたよ!」

「宮前……」


ああ――。あの派遣社員ね。そんなこと、よく覚えているな。


「あんな感じで、眞のアシスタントみたいな人にとびっきりの美人さんがいたりしてさ。『ミスターイクタ、オフィスでもプライベートでもアナタのお世話シタイ』みたいに言い出して、『黒髪、セクシー』とかって迫られて。グラマラスな金髪美女に言い寄られて会議室で――最悪!」

「ちょ、ちょっと待て。一人で暴走するな! また、変な小説でも読んだんだろ!」

「だって!」


俺は何も言っていないのに、自分で言い出したことに不安になってどうするんだ。
そう言えば、英語の勉強だとか言って、こっちの本屋でなんだか怪しいタイトルの恋愛小説を買っていたのを思い出す。

法律事務所の弁護士とそのアシスタントとのオフィスラブのような内容だった気が……。

沙都がかなりの力で俺の腕を掴み、厳しい目つきで睨み上げて来る。
だから、俺はその目を真っ直ぐに見つめ返し口を開いた。


「”Other ladies don't enter my sight.You wouldn't believe how much I love you.I'm madly in love with you. "」


まったく。俺がいつもどれだけ沙都のことで心乱されていると思っているんだ。
少しは、思い知れ。


「え、えっ? なんて言ったの? もう少しゆっくり――」

「これくらいの英語聞きとれよ。ったく……」


わあわあと騒ぐ沙都をそのまま腕の中に抱き締めた。

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