臆病者で何が悪い!
「あーっ、生って最初の一口が最高に美味しいよね。生ビール開発した人って誰よ。ほんと、いい仕事したよね」
一口と言いながら、ジョッキの三分の一はもう既になくなっている。この最初の一口が一番美味しい。疲れた体に一気に染み渡るアルコールで身体中が少しふわりとする。この感覚が何より好き。そのふわりとした感覚が開放感と勢いを私に与えてくれる。
「おまえ、口に泡が付いてるぞ……」
隣の桐島が、またも大袈裟にバカにしたような目で見て来た。
「えっ? 本当?」
そのままぺろりと舐めとってしまった。
「沙都! ちょっと、ハンカチで拭いなよ」
私の斜め前、桐島の正面に座る同期の女子、 鈴木香蓮が慌ててハンカチを差し出して来た。
「えっ……。大丈夫、大丈夫」
さすがに人様のハンカチで口を拭うつもりはない。丁重にお断りしておいた。
「おまえは、少しでいいから鈴木さんを見習え」
桐島が、ほんのわずか緊張を表情に滲ませてそう言った。それで、私はすべてを察する。
「はいはい。私と違って、香蓮は女らしくて素敵女子だもんねー」
桐島が本当に言いたいことを代わりに言ってあげた。
同期の女子、鈴木香蓮。少々お堅いうちの職場の中でも、華やかな雰囲気を身にまとう女子だ。
そのピーチサワーなんて甘くて爽やかな飲み物を手にしている指先も、品を失わないヌーディーなピンクベージュのネイル。女性らしさをちゃんと醸し出したゆるふわまとめ髪。耳元には清楚な感じの小さなパールのイヤリング。
嫌になるほど可愛いわー。