臆病者で何が悪い!
「――もうっ! ホントに信じられないっ!」
朝、ベッドから出て着替えようとしていた沙都が、突然声を張り上げた。
「これ、どうするのっ?」
鏡の前で、喚いている。
俺は、しらーっとその後ろを通り過ぎようとして――。
「こらっ! 眞に言ってるんですけど!」
すかさず腕を掴まれた。
「何が」
「首元! もうちょっと見えないところにするとか、考えてくれてもいいよね?」
沙都が首筋を俺に見せつける。
パジャマを中途半端にはだけさせたその姿は、怒りに満ちた表情に反して艶めかしい。
それ、誘ってるのか――?
なんて言おうものなら、火に油だろう。
俺は、何も言わずにその首筋から鎖骨にかけてのラインに目をやる。
確かに。首筋、顔の真下に、しっかりと俺の付けた跡が残っている。
「ちゃんと、見えないところにもたくさん付けたよ」
「そ、そういうことを言ってるんじゃなくて!」
昨日の濃密な行為が蘇ったのか、今度は顔を真っ赤にしている。
「――分かったよ。悪かった。お詫びに、俺にも付けていいから。今日一日、おまえだけに恥ずかしい思いをさせるのは不公平だよな。だから、いいよ。俺にも見えるところに付けていい」
ちょうどワイシャツのボタンを留めようとしていたところを、沙都にとっ捕まえられた。
ワイシャツは腕を通しただけで、胸元は開いている。
沙都に一歩近づき、ワイシャツの襟を大きくはだけさせて沙都に上半身を突き出した。
「え、え……っ? べ、別に、私は――」
「いいから。おまえの怒りももっともだからな。ほら、早く」
あんなにも怒り狂っていたのに、俺の上半身から視線を逸らし、後ずさっている。
「遅刻するぞ?」
「もう、いい! タートルネックの服探すから!」
そう言って、沙都は逃げ出してしまった。
俺は、別に、付けられてもよかったのに――。
そう思いながら、沙都の背中を見送った。
それから一週間後の週末――。
スティーブのペントハウスで行われるホームパーティーの日がやって来た。
取り仕切り役の沙都は、朝からてんやわんやだ。