臆病者で何が悪い!




「――うん。ばっちり決まってる」


ジャケットの襟と、中に着ていたシャツに指を這わせて、最後に肩をぽんと叩く。
その仕草が、妻っぽい。

俺を見上げる今日の沙都は、たまらなく眩しい。


「おまえもな。心配になるくらい綺麗だ」

「それは、どうも」


褒められても上手く喜べないのが沙都で。
こういう時は、かならずぶっきら棒になる。


「では、行きますか」

「そうだな」


コートを羽織り、手土産も準備万端で、アパートを出た。


秋も深まり、そろそろ冬という季節に片足を踏み込んでいる。
ニューヨークの冬は厳しいと聞いている。

二人で過ごす、次の季節はどんなものになるだろう。


地下鉄を使っても良かったのだけれど、あまりに天気が良かったので歩いてスティーブの自宅へと向かった。

賑わう通りは、歩いているだけで楽しい。


教えてもらっていた住所を頼りにたどり着いた場所に、高層の建物がそびえたっていた。


「……ここの最上階だな」


俺が顔を懸命に上に向けて、呟く。

仰々しい玄関にはドアマンが二人立っている。


「そうみたい」


沙都が隣で緊張していた。


「とりあえず行こうか」

「そうだな」


自然と腕を差し出し、そこに沙都が腕を絡める。
おどおどしてはいけないような気がして、必要以上に胸を張った。




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