臆病者で何が悪い!




”え、えっと……、こちら、私の夫のイクタ マコトです”


急に緊張したように口を開いた。英語を口にするというのは、慣れるまではただそれだけでも緊張するものだ。


”どうも。いつも、沙都がお世話になってます”


以前会った時にも挨拶したような気がするが……。
まあ、いいか。

それより――。

近い。距離感が異常に近い。

沙都のクラスメイトの女性が、俺を一切の遠慮もなく間近から見て来る。
今にも飛びつかれそうな勢いだ。

何をそんなにまじまじと見ているのか。

そんなに俺を見ても、面白いものなどないと思うけど……。


”肌がきれい。目がステキ。身長が高い”


そんなようなことを羅列して言って来る。
いちおう、褒められているらしい。


”デートしたい”

”え?”


途中から聞こえて来た意味不明な言葉に思わず声を上げた。


”ダメ! 彼は私の夫です!”


これまた短い文章が沙都から飛んでくる。
そして俺の腕をぐいっと強く掴んで来た。

目の前の女性には今にも喰われそうに迫られ、そして隣からは絶対に渡さないとばかりに腕を引っ張られる。

この状況に苦笑する。

でも、沙都がこんな風に自分の感情を他人に示せるようになったのは、いい傾向だ。


もう少し、この様子を見させてもらおう――。


”デートがだめなら、英語教えるのはいい? マコト、英語が上手。だから、教えてほしい”

”ダメ。彼は私の夫です”


食い下がらない女性に、俺は微笑みかけた。


”申し訳ない。僕は、誰よりも妻を愛しているから、妻の嫌がることはしたくないんだ。それに、僕は妻だけのものだから”


最後にニッと笑う。
伝わったかな?


”最高!”


彼女から声が上がる。

それは、つまり、伝わったということだろう。



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