臆病者で何が悪い!
その後、クラスメイトの若い男どもが、”日本人女性はチャーミングだ”なんてふざけたことを沙都に言おうとしていたのを途中で上手く遮った。
まだ二十歳もそこそこの若造が、沙都を口説こうなどと100万年早い。
子どもは子ども同士付き合えばいいのだ。
”今日のサト、すごく綺麗だ”
人妻に何をぬかすか。
俺の妻だと言っているのに。
図々しい奴らだ。
だから、このワンピースだけは心配だったのだ。
やっぱり、今日、俺もパーティーに招いてもらって本当に良かった。
心底、そう思う。
そして、スティーブがなぜ英語講師という職業でこんなところに住めているのかの謎も判明した。
”妻がね、不動産王の娘なんだよ”
なんでもないことのように、そうさらっと言ったのだ。
不動産王――。
米国の不動産王って、きっと、すべてのものが桁違いだろう。
俺のような凡人には想像もつかない。
この部屋、”私たちの新居にってパパが準備してくれたのよ”
と、奥さんのケイトさんが笑顔で言った。
ある意味スティーブも、きっとすごい人なんだろう。
”二人の出会いは?”
皆も不思議に思ったのか、その質問が飛ぶ。
”同じ大学に通っていた同級生なんだ。僕は奨学金とアルバイトでなんとか生計を立てる苦学生。そして、ケイトは資産家のお嬢様。貧しい俺の元に降り立ってくれた天使さ”
スティーブが大真面目にそんなことを言っていた。
”スティーブは、最初、私が資産家令嬢の女子大生だって知らなくて。たまたま財布を忘れて学生食堂の前で困っていた私に、『君もお金に困ってるのか』って、なけなしのお金をくれたのよ。自分は一食食べるのにも精一杯だったのにね”
そう言って二人は見つめ合っていた。
それは、無欲の勝利――か。
なんだか、分かる気がする。
大いに分かる。