臆病者で何が悪い!
寒い。とにかく寒い。
ニューヨークに赴任してから初めての、本格的な冬に身体も心も折れそうになる。
「今日も、雪かな……」
カーテンを開けて窓をの外を見ながら沙都が呟いた。
「降り続くなぁ」
俺もその隣に立ち、同じように窓の向こうに視線をやる。
ニューヨークは、ここ数日雪に見舞われていて。
一面真っ白だ。
「お仕事、気を付けて行って来てね」
「ああ」
「転んだりしないでね」
「ああ」
心配そうに見上げる沙都の顔に、俺は満足する。
俺のこと、心から心配している顔だな――。
こうして気遣ってもらえると嬉しいなんていうこの思考回路も筋金入りだ。
「帰りも、気をつけつつ、今日は早く帰って来るから!」
俺を見上げる沙都の腰に手を回し、沙都に微笑む。
「今日? どうして?」
どうしてって――。そりゃあ、決まってるだろ。バレンタインデーだぞ。
きょとんとした顔の沙都に、少し不安になる。
まさか、結婚一年もたたないというのに、もうどうでもいいとか――?
いや。そんなはずない。
俺は、懸命に否定する。
沙都はツンデレな女だ。
わざと、忘れたふりでもしているんだろう。
そうだ。そうに違いない。
俺は、ひきつりそうな顔を笑顔に戻す。
「いいっていいって。じゃあ、俺は、期待しながら今日一日を過ごすから。じゃあ、行って来る」
これぞ、言い逃げ。
俺は、アパートを出て雪の空の下に出て行った。