臆病者で何が悪い!
浮わついた足で、家路へと急ぐ。
今年は、どんなサプライズが?
一年前は、とんでもない下着姿で俺を待っていたっけ。
この際サプライズなんていらない。
一年前と同じでもいい。
なんなら、裸でもいい。いや、裸エプロン、なんていうものもある。
真面目な顔でいかがわしいことを考えながら地下鉄に揺られる。
チョコレートなんかより、よっぽど甘い沙都の身体。
もう、なんでもいい!
「――沙都、ただいま」
吹き付ける雪に負けずに、玄関にたどりついた。
「おかえりー」
声だけのお出迎えだ。
夕飯の準備中だろうか。
裸エプロン――。
いや、まさかな。
しまりのない顔をしてしまいそうになって、慌てて表情を引き締めキッチンへと向かう。
「今、夕飯作ってるからね。もう少し待っていて」
そう言う沙都の後姿をじっと見つめる。
普通だ。
ジーンズに白いセーター。
いたって普段着。
「沙都」
「ん?」
「今日、なんの日か、知ってる?」
結局聞いてしまっている始末だ。
「今日? なんだっけ」
え――?
バレンタインデーだぞ!
「バレンタインデーだと、思うんだけど……」
俺はバカか。
とうとう自分で申告している。
「ああ……。ごめん、チョコは準備してないや」
沙都が気まずそうな顔をした。
忘れられていたことより、そんな顔をされたことの方がショックだ。
「まあ、な。誕生日とか結婚記念日とか、クリスマスとか、そういう日に比べれば重要度も下がるし、大したイベントでもねーしな」
って取り繕う自分が惨めにもなるが。
それもあながち間違っていない。
だったら――。
「チョコレートなんて、いいよ。それより――」
キッチンに立つ沙都の真正面まで行き、エプロンの紐に指をかける。
「な、なに?」
「沙都の身体がほしい」
「は、はぁ?」
慌てふためく沙都に構わず、次々身に着けているものを剥ぎ取って行く。