臆病者で何が悪い!
本当に、あの時の私、大馬鹿だったな――。
それでも、手離したくなかった。唯一、私を女として扱ってくれる達也を。冷静になればなるほど、虚しさが蘇る。だから、慌ててビールを身体に流し込んだ。
「で、もっとバカなのが、それから少しして、結局振られたってこと。振られるくらいなら、あの時自分からかっこよく別れを切り出してれば、まだマシだったのにねー」
ほんっと、笑える。とことん、笑える。
「あいつ、何て言ったと思う? 生田、当ててごらんよ」
目の前に座る生田を指さす。こうなったらもう、生田にも笑ってもらいたい。
「『悪いけど、もう部屋とか来ないでね。電話もしないで。俺、彼女が出来たから』だって! 笑えるよね? じゃあ、私はなんだったんだっていうの」
可笑しい。本当におかしくなってきて、声に出して笑ってしまう。
「でもさ、よく考えたら、彼に『付き合ってくれ』って言われたわけじゃなかったんだよね。私って、彼女っていう存在にすらなってなかったってその時気付いた。だから、私がいる場所で、友達とあんな電話できたんだよね。バレないようにしようっていう気遣いさえ必要ない女だったんだよ」
可笑しいのに。笑えるのに、なんでだろう。目がじんじんして来た。そんな症状を払拭すべく、声を張り上げた。
「あーっ、サイアクの記憶。あの時、私、よく生きてたなぁ。男どころか、どこの省庁も私を選んでくれないし。誰にも必要とされない人間なんだって思えた。最後の一つの面接を終えた帰り、急に虚しくなって涙止まらなくなってさ。日比谷公園のど真ん中のベンチで泣きまくった」
霞ヶ関の外れにある、日比谷公園。ボロボロの身体と心でたどり着いた。
「恥ずかしくて泣き止みたいのに、どうしても出来なくて。しょうがないからずっと俯いていたけど、きっと公園にいた人に気付かれてたよね。スーツ姿でベンチで一人泣いてる女。今考えると、怖いよね」
あの時の夕焼けの空が、余計に私を惨めにして。落ち着くどころか、どんどん苦しくなった。
「あのベンチで、私、この世で一人きりだって、思った。孤独って怖いよね。凄く凄く孤独だった。だけど、そんな私を助けてくれたのが親でもなく友人でもなく、見ず知らずの人だったの」
そう。夕方の公園で泣きじゃくるイタイ女子大生に近付いてくれた人がいたんだ。
「恥ずかしくて顔をは見られなかったんだけど、誰かがハンカチ差し出してくれて。離れた身内より近くの他人、だっけ? そんな言葉があるでしょ。まさにそれ。そのハンカチがあの日の私を救ったよっていうお話でしたっ! チャンチャン」
喋り続けて喉が渇いた。少しぬるくなったビールを飲み込む。
「ちょっと、笑いなさいよ。これ、笑える話なんですけど」
ここまでずっと、押し黙ったままでいる生田を責めてみる。