臆病者で何が悪い!


それにしても、どうしてこんなこっぱずかしい超プライベートな話を生田にしちゃったんだろう。大して親しくもないただの同僚だ。生田も生田で、こんな話、興味もなければ面白くもないはず。それなのに、生田は何も言わずにずっと聞いていた。

「心の中では笑ってんでしょ? イタイ女だって」

そう言いながらも、生田にならそう思われてもいいような気がした。その冷たい目で思いっきり蔑んでほしい。いつものように、「アンタ、バカか」って。

そんなことを思っていたら、生田が何故か少し怒ったような顔でやっと口を開いた。

「笑えるか! 全然、笑えねーよ。笑わせたいなら、もっと笑いのネタとして質のいい話をしろ」

そう言い放った。
それを皮切りに、黙っていた分、決壊したように生田が喋り出した。

「だいたい、あんた、男を見る目がなさ過ぎだろ。世の中には吐いて捨てるほど男はいる。確かに、ろくでもない男は存在するよ。でも、それと同じだけまともな男もいるんだ。そうやって傷付いたことを、自分のせいだと納得するのをやめろ。あんただからそんな目に遭うんじゃない。全部、相手の男のせいなんだ」

この人、こんなに喋るんだ……。いつも省エネなのに。
生田も酔ってるの……?

一瞬、その勢いに圧倒された。

「分かったのか?」

「は、はいっ」

じろりと睨みつけられて、思わずいい返事をしてしまった。

「ったく、あんたは……。もう、いいから飲め」

ふーっと盛大な溜息をつかれたかと思ったら、今度は新たなジョッキを差し出して来た。

「飲むよ! ええ、飲みますとも」

その溜息が、なんだか私を慰めているもののように感じるから不思議だ。
こりゃ、相当酔ってるとしか思えない。溜息が慰めだなんて。

でも。こうして生田に話して、説教されて。そして、ビールを飲んで夜風に吹かれて。私の痛くて惨めで情けない、いつまでも治らない古傷が、どうでもいいことのように思えて来る。一息にビールを飲み干すと、不思議なほどにすっきりとしていた。

「美味しい。なんだか、このビール最高に美味しい」

最低な過去に遭遇した日、生田がいてくれたことに感謝した。だから、生田に満面の笑みを向けてみる。でも、生田は呆れたようにぼそっと呟いた。

「それにしても……。成長してないんだな、その男を見る目のなさ」

「えっ? どいうこと?」

成長してないって、どういう意味?

「……別に」

訳が分からなくて聞き返してみても、生田は答えてくれなかった。

「まあ、今のあんたの場合、状況を見る目もない、とも言えるな……」

答えてくれないくせに、また一人でぶつぶつ言っている。

「分かるように話しなさいよ。感じ悪い!」

「なんでもねーよ」

なによ。なんだか上から目線の生田に急に悔しくなる。

あ、そう言えば……。

私も少しは反撃したいと思っていると、あのことを思い出した。

< 45 / 412 >

この作品をシェア

pagetop