臆病者で何が悪い!
「おい」
「ちょ、ちょっと待って。大丈夫だから」
振り返った生田にそう言葉を返す。
『私、歩けなくなっちゃった』なんてこと、言えるわけない。
いくら酔っぱらったって、その辺はわきまえちゃうところが我ながらカナシイ。
でも、結局。私は、生田に肩を支えられながら歩いている。
「大丈夫だから。さっきは、急に立ち上がったからふらついただけ。今はもう平気」
本当にそうなのだ。さっきより幾分身体はしっかりしている。ちゃんと一人で歩ける。
「どこがだよ。おまえの家まで送ってくから」
「な、なにっ?」
すぐそこにある生田の身体。そしていつもより近くで聞こえる生田の声に、否が応にも緊張してしまう。おかげで、裏返った声を出してしまった。
「何言ってんのよ。大丈夫だから、家まで送るなんてそんな大層なことしなくていいっ」
「酔っ払いが、どの口で言ってんだ」
「例え酔ってたって、私だからだいじょーぶなの! 一人でも問題ありません!」
生田の身体から離れ、何故か敬礼をしてみる。あまりに機敏にしてしまったものだから、その反動でまたふらついてしまう。
「おいっ、バカ。いいから、酔っ払いは大人しくしてろ」
ふらついた身体を生田が咄嗟に抱き留めて、思いもかけず真正面に生田の胸が迫る。
不覚にもドキッとしてしまって、それ以上冗談めかした言葉が出てこなくて。気付けばタクシーに押し込まれていた。フラフラふわふわとした感覚でシートに沈み込む。やっぱり、今日はかなり飲んだ。こうしてじっと座っていると分かる。ぐるぐると身体中をアルコールが駆け巡っている。
ちらりと隣に座る生田をうかがうと、足を組み窓枠に肘をついて窓の外を見ていた。
様になるなぁ……。長い手足に、どこか憂いを帯びた男らしい表情。その横顔をぼーっとした頭で見つめる。ほんと、黙っていれば、イイ男だ。そうじみじみと思っていると、心地よい車の振動のせいで突如眠気が襲って来て。気付くと、私は意識が遠のいていた。
「おい、着いたぞ」
「……ん?」
「早く、起きろ。降りるぞ」
肩を揺さぶれて、目を開ける。
「ああ……。はい」
腕を引っ張られて、足がもつれそうになりながらタクシーを降りた。目の前には、私の住むマンションがある。
「部屋の場号は?」
「201……」
生田の言われるがままに、なされるがままに連れて行かれる。部屋の玄関の前までたどり着き、おぼつかない手でバッグから鍵を探す。もう自分で立っていられるのに、何故か生田が私の腕を掴んだまま。それを指摘するのも億劫で、そのままにしておく。