臆病者で何が悪い!
どうして、生田が田崎さんのことを――?
頭の中でどれだけ考えを巡らせても、答えなんて出ない。そして何より、もう疲労と眠気でまともに考えられるだけの気力も残っていなかった。
次の日の朝、思わず目をしかめてしまうほどの頭痛で目が覚めた。
ヤバい……。完全に二日酔いだ。こめかみをぐりぐりと指で押しながらベッドから這い出る。カーテンの隙間から零れる既に明るすぎるほどの日差しがさらに身体を痛めつけた。
頭痛と気怠さの中、身体を引きずるようにして出勤すると、既に生田は席についていた。
早いな……。
生田だって、結構飲んでいたし、帰りだって私より遅かったはずだ。
「生田、おはよう」
「おはよ」
その背中はわずかに動いたけれど、すぐに元の姿勢に戻っていた。昨晩のことをいろいろと思い出し、一人気まずさを覚える。
お酒のせいだとは言え、元カレとの恥ずかしくて痛々しい過去をこの人に話しちゃったんだよね……。
でも、まだ話が終わったわけではない。気恥ずかしさを振り払い、その背中の元へと近付いた。
「昨日はかなり酔っぱらっちゃって、迷惑かけたよね。これ、昨日のビアガーデン代とタクシー代。足りなかったら言って」
今朝、家を出る前に準備した封筒を生田に差し出した。そうしたら、椅子ごとくるりと身体を向けた生田が私を見上げて来た。
「いらねーよ。ビアガーデン誘ったのは俺だし、送ったのだって俺が勝手にしたことだ」
「そういうわけには――」
「それより、あんたの脚本みたいな昨日の研修会のメモ見せてよ。確認したいところがあるんだ」
「え? 脚本……?」
脚本って、昨日私が研修中に書いていたもののこと?
睡魔に打ち勝つために、無駄に丁寧に事細かに書いたメモのことを言っているのか。
「早く」
「あ、は、はい」
鋭い視線で急かされて、慌ててノートを差し出した。そして、受け取るなりすぐに私に背を向ける。
「って、そうじゃなくて、お金――」
「おはよう」
手の中に残ったままの封筒をもう一度手渡そうとしたら、課長補佐が出勤して来てしまった。