臆病者で何が悪い!
「ほら、挨拶に行くぞ」
補佐の姿を確認した生田が、すぐに立ち上がり私を促す。私は急いで鞄と封筒を自分のデスクに置き、生田の背中を追った。
「昨日の研修、内野と出席してまいりました。」
補佐のデスクの前で二人並んで立つと、生田がそう挨拶をした。
「ああ、二人ともご苦労さん。じゃあ、後で報告書出しておいて」
「分かりました。では、失礼します」
頭を下げて、自分の席へと戻る。研修って参加するだけならまだしも、この事後の報告書がやっかいだ。
「じゃあ、私、報告書作るから」
こんな仕事は、私がやるべきことだ。生田は同期ではあっても、序列的には私の上になる。
席に戻り、早速パソコンを立ち上げた。頭の中でさっと今日一日のやるべきこととその手順を整理する。昨日一日、職場に来ていない分、大量のメールが届いていた。とりあえずメールをチェックしてさばいて、それから報告書に取り掛かろう。そう予定を立てながらメールを開いて行く。
「内野さん、おはよう。昨日は、研修お疲れ様」
「田崎さんっ、おはようございます。こちらこそ、一日留守にしてご迷惑おかけしました」
いつも癒しをくれるその笑顔が、そこにある。一日会っていないだけで、とても久しぶりな感じがした。
「昨日は急ぎの仕事もなかったし、大丈夫だよ。これだけ、チェックしておいて」
「はい」
渡されたバインダーを受け取りながら、つい田崎さんの顔を見てしまう。
――田崎さんはやめておけ。
生田があんなことを言うから、意識してしまう。生田は、どうしてあんなことを言ったんだろう。
私の態度や表情に、何か出てしまっているということ――?
生田がちょっと見たくらいで分かるほど――?
私は、別に、田崎さんのことそんな風には……。
そう思いたいのに、心が抗おうとする。
違う。これは、恋愛感情なんかじゃないから。恋したりなんか、しない。
言うことを聞こうとしない心を力づくで押し込める。