臆病者で何が悪い!


この日は、何故か各方面からの問い合わせが多い日で、電話を受けてばかりいたらお昼になっていた。午前中はずっと喋っていた気がする。朝から見ていなかったノートパソコンを開きメールをチェックすると、同期の桐島からのメールを受信していた。

――遠山が結婚するらしい。だから、同期で祝いの飲み会でも開いてやろう。ということで、とりまとめ頼む。

えっ、あの遠山が?

――いつの間に、そんな彼女いたの?

思わずそう返信したら、昼休みに入っていたからか桐島からすぐに返信が来た。

――大学時代からの遠恋の彼女らしい。

凄いな……。離れていても、何年もお互いを大事にしていけるなんて。それってどんな感じなのだろう。ついしみじみと、桐島から送られて来たメールの文面を見つめてしまった。それはめでたい話でもちろんお祝いしてあげたいけれど、結局仕切るのは私ですか。

いつもそうなのだ。同期の飲み会だという話になると、必ず私が店を探して予約して日程調整して……ということをすることになる。もうそれもいつものことだから文句を言う気もない。

とりあえず、みんなの都合を聞かなきゃ……。

そう考えたところで、田崎さんとの約束が頭を過る。

『じゃあ、善は急げだ。今週末にでも夕飯、行こう』

それだけで、心拍数が上がってしまう。

――来週以降で、同期のみんなに都合聞いてみる。そう桐島に返信を出した。



とうとうその日がやって来た。待ちわびているのに緊張して。楽しみなのにどこか怖い。そんな複雑な心境でこの数日を過ごしていた。

いつもなら目覚ましが鳴ったってなかなか起きられないというのに、目覚まし時計が働く前にこの頭はしっかり働いてしまっている。いつもより、一時間も早い。時計の時刻を確認して、これ以上どうやっても寝られる気もせず、起きてしまうことにした。
さっさと朝食を食べ、顔を洗い、入念にメイクをする。そして、クローゼットの前で考え込んでしまった。

何を着ればいい――?
田崎さんは、どういう感じが好きなのかな……。

そう、田崎さんと二人で夕食を食べる約束の金曜日を迎えたのだ。

いつもより少しは女らしく。そうは言っても大してバリエーションのない私の手持ちの服を、何度も見比べる。そして、悩みに悩んだ末に、オフホワイトのとろみ系ブラウスに淡いピンク色のフレアスカートというコーディネートにした。

ちょっと、気合い入れ過ぎかな――。

私は、どちらかと言えばパンツスタイルが多い。

あからさま過ぎる――?

そう思ってはみたものの、着替える気にはならなかった。髪型も少し動きを出して。
鏡に映る自分がドキドキとしている。それが妙に恥ずかしかった。

それ以上家にいても落ち着かなくて、早くに出勤してしまった。いつもより静かなフロアを進み自分の課にはいると、生田の姿が見えた。パッと見回したところ、他に人の姿は見えない。ちょうどよかった。渡しそびれていた封筒を渡しておこう。

「おはよう。生田、やっぱりこの前のお代――」

「今日はまた、随分めかし込んでるな。なんかあんの?」

「えっ……」

咄嗟に鞄で胸のあたりを隠す。

やっぱり、分かりやす過ぎる――?

「べ、別に、いつもと変わりませんけどっ」

めちゃくちゃしどろもどろじゃん!

「あっそ」

「そ、そうよ」

生田にまで気付かれるなんて、恥ずかしくて死にそう。これ以上見られたくなくて、逃げるように自分の席に着く。

生田って、時折痛いところ突いてくるから嫌なのよ。頑なに生田の方は見ないようにしてその日一日、仕事をした。

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