臆病者で何が悪い!


手早くメイク直しを済ませて廊下へと出ると、タイミングが悪いことに生田と出くわしてしまった。

「い、生田。お疲れ」

「……もう帰り?」

生田の視線が私の肩にかかる鞄に向けられている。

「あ、うん。そう。じゃあ、お先」

生田の片手には資料らしきファイルが抱えられていた。どこかから資料を取って来た帰りなのだろう。とにかく、早くこの場から去らなければ。また、余計なことを言われたくない。そう思って、そそくさと生田の横をすり抜けた。

「内野」

そのまま逃げ切ろうとしていた私の背中に、呼びかけられる。思わず肩をびくつかせてしまった。

「な、なに……?」

何か気付いているのだとしても、何も言わないでほしい。そう願いながら恐る恐る生田の方に振り向いた。振り向いた先にいた生田は、ただじっと私を見るだけで何も言わない。その目は、何かを必死に考えて口にする言葉を選んでいるようにさえ見える。

「何なの?」

「……いや。お疲れ」

生田が何かを吹っ切るように私に背を向けた。

一体、何なのよ……。

生田の顔を見る度、”田崎さんはやめておけ”が脳裏を掠め、何故だかわからない生田に対する後ろめたさを感じてしまうのだ。

どうして、私が生田に後ろめたさを感じなきゃいけないの――?

自分でもさっぱりわからない。考えても答えが出ないことだけは分かっている。私も、すべてを吹っ切り、田崎さんの元へと向かった。

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