臆病者で何が悪い!
「……それでね、今日、実は、僕の個人的なことで相談に乗ってもらいたくて。いいかな」
「相談、ですか?」
フォークとナイフを持っていた手を、テーブルに置く。
「私なんかで、お役に立てるのか……」
「内野さんじゃなきゃ、ダメなんだ」
田崎さんのプライベートなことまで話をしてもらえるなんて。それはとっても光栄なこと。優し気な目元が一気に真剣な眼差しに変化する。
ドクン。ドクン――。そんな目で瞬きもせず見つめられたら、鼓動の音が聞こえてしまいそうになる。
「私で良ければ」
こんな私でいいのなら。田崎さんのお役に立てるのなら、なんだってしたいと思ってしまう。
「ありがとう」
柔らかそうな田崎さんの髪が、揺れる。前髪の隙間から見えるその目が、再び優し気に細められる。
――内野さんじゃなきゃダメなんだ。
そんな風に思ってもらえるなんて。嬉し過ぎて、呼吸を忘れてしまいそうだ。
「実はね、飯塚さんのことなんだけど――」
え――?
「内野さん、飯塚さんとすごく仲がいいよね」
希……?
「――だから、君にしかこんなこと相談できなくて」
田崎さんの、緊張気味な、それでいてどうしても緩んでしまうのだろう、誰かを想う表情がそこにあった。
「ごめんね。同じ職場内だし、こういうことはどうしても慎重にならざるを得ない。でも、内野さんはとてもきちんとした誠実な子だ。だから、こういう話をしてもきっと他言するようなことはしないって。僕は内野さんを、心から信頼してるから」
「……もちろん、誰かに話したりなんてしません。そんな風に信頼してもらえて、光栄です」
私は今、どんな表情を田崎さんに見せている――?
一体、私は、どんな顔をしているの――?
それが不安だったけれど、でも、そんな心配まったく不要だと知る。
「飯塚さんと、付き合えたらいいなって思ってる」
その緩んだ表情は、希の話をするからなのか。そんな表情をしている田崎さんが、私の顔色なんかを気に留めるわけがない。その心はきっと、希のことで一杯だろうから。