臆病者で何が悪い!
「田崎さん、希のことが好きだったんですね。全然気が付きませんでした」
そうだったんだ。希のことを、ずっと、そういう風に見ていたんだ。本当に気付かなかった。こういうことには敏感だったはずなのに。他人のことならあんなにもよく見えていたのに。自分に関わることでは役立たずって、どんだけ無駄な能力なの。本当に私って、バカだな。
バカ。バカ過ぎて、笑えて来る。
「内野さんのところに、彼女よく来ていたでしょう? それで、何度も見かけているうちに、ね」
その優しげな表情を緩ませ、くしゃくしゃの笑顔をした。これまで一度も見たことないほどの、そしてそれがきっと田崎さんの本当の笑顔。
「そうですよね。希、めちゃくちゃ綺麗な子だし。顔だけじゃなくて、性格も本当にいい子なんです」
「そうだよね! 僕も彼女のそういう雰囲気に、一目で惹かれた。そして、どうしても僕の彼女になってほしいと思うようになった」
そうだと思う。希みたいな子、絶対に自分のものにしたくなる。希だから――。そんなこと、全然不思議じゃない。普通にあり得る。大ありだ。驚いたりなんかしない。絶対に、しない。
「飯塚さん、今、誰か好きな人とか、いたりするのかな」
今、この瞬間、田崎さんの向かいに座るのは私なのに。この場にいるのは私じゃない気がして来る。
「今は、おそらくそういう人はいないんじゃないかと思います。そういう話題、ここずっとしたことないので」
「そっか。良かったー。今、内野さんに聞きながらも、緊張しまくってたから」
良かった、良かったと、何度も田崎さんは一人呟いていた。
「希は今フリーだし、田崎さんのような人なら十分可能性があると思います」
「飯塚さんの親友である君にそう言ってもらえると、かなり勇気が出るな。このレストラン、内野さんが気に入ってくれたなら、飯塚さんも気に入ってくれるかもしれないね。勇気を出して誘ってみるよ」
あ……、だから私をこんな場違いな店に連れて来てくれたのか。田崎さんにとって私は、"内野沙都"じゃない。"飯塚希の親友"なのだ。
それからは、とにかく希のことを喋りまくった。希の趣味、希のいいところ、希の好きなもの――。喋って、喋って、喋り続けて。お門違いで身の程知らずな感情が漏れ出てしまう隙を自分に与えないように、ひたすらに喋り続けて。笑って、笑わせて、いつもの内野沙都のような顔をして――。