臆病者で何が悪い!


「内野、オーダーの追加頼む! ファジーネーブルと、生3つ」

そんなことを考えていると、真ん中の方の席から声がかかった。

「了解!」

そちらに目を向けてオーケーサインを出す。



あっち側も、早速盛り上がってる――。

表情も皆緩んで、大きな口を開けて喋って。

楽しい時って、自然と口の動きも大きくなるんだよね。

私は、東京、霞ヶ関の中央省庁で働く国家公務員だ。労働基準法なんて法律で守られることもなく、残業ばかりの毎日で、日々の仕事はストレスが積り積もっている。

同じ立場の同期でこうしてたまに集まって騒ぐ。それが、何よりの発散なのはみんなも同じなんだろう。

それにしても、みんなはしゃぎ過ぎでしょ――。

店員さんに追加のオーダーをし終えて、思わず周囲を見回した。

でも、ただ一人――。
どう見ても同じ場にいるとは思えない、違うテンションをまとった男が目に入る。私とは反対側の一番端の席に座る、あれは――生田眞(いくたまこと)

まあ、彼の場合いつものことだ。そこにはいるんだけど、一歩引いているというか冷めているというか。
壁に背をもたれさせ、ジョッキを手に自分のペースで飲む。口元もほとんど動いてない。

それでもその場で浮かないのは、そこそこ顔がいいからか。ああいうのを人は『クール』と言うのだろうか。まあ、そうだろう。

顔がいい人って、ホントに得。無理にキャラを作り上げなくても、こうやって盛り上げ役になったりしなくても、そこにいることを許されるというか。むしろ、「特別」に扱ってもらえて。見苦しい努力なんて必要ないもんなぁ……。

ほら、なーんにもしてなくても、もう一人の同期女子、香川京子がちらちら生田のこと見てる。

外見がすべてだなんて言うつもりはないけど、それでも、男も女も、外見がいいっていうのは間違いなくアドバンテージにはなる。

同期として出会って四年、あんまり生田とは会話をしたことはない。

あの無表情さが何を考えているか分からないし、私のこのキャラも無言のまま鼻で笑われて終わりそうだし。

とにかく、あの雰囲気が近寄りがたくて仕方がない。

私のノリに合わせてくれる人かどうか。そういうことに関しては、察知能力が働くのだ。

あれは、絶対、対応不可なパターン。

入省してからずっと、生田だけはなんとなく苦手だった。

だから、この四月に私の課に異動して来たというのに、生田のことは良く知らない。

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