臆病者で何が悪い!
「沙都」
「ん?」
正面に座る希が私に顔を近付けて、耳打ちして来た。
「桐島君、戦闘モードに入ったみたいだね」
隣に座る桐島に目を向けると、さっきまでとはうってかわって前のめりになって香蓮に話し掛けていた。
「むしろ、がっつき過ぎ?」
希とこそこそと笑い合う。
「沙都は、ホント、こういうの放っておけないよね」
「別に、私は――」
「いいの、私に隠さなくたって。沙都のそういうとこ、もう全部お見通しだもん」
そう言って、希がにっこりと笑った。
「希チャーン! そこにばっか座ってないで、こっちにも来てよ」
少し離れた所から、無駄に大きな声で叫ぶ男がいる。
開始からそろそろ一時間。みんな、酔いが回り始める頃だ。しらふではなかなか出せない、心の奥の欲求を曝け出す頃。お酒の力って凄い。酔っていようがいまいが、自分の心の中のストッパーを外してくれる。それが、お酒のいいところなのかもしれない。
希は男にも女にもモテる。同期は当然のこと、オジサマたちにも後輩たちにも先輩にも彼女のことを嫌いな人なんていない。それでも、一番仲のいい私の傍にいてくれる子なんだ。
「ほら、希、お呼びだよ?」
「じゃあ、沙都も――」
「私は、隣の二人の恋の行方を見守っているから。ほら、希は早く行ってあげな」
ニヤリとして囁いた。
「なるほど。じゃあ、私の代わりに見届けておいて。後で、報告ね!」
「うん」
隣の二人は二人の世界に入り込んでいる。もう使いものにならない。ここから私までいなくなったら、雑務(追加のオーダーなどなど)をする人がいなくなっちゃうもん。
人には適材適所という言葉がある。そうやって世の中は回っている。