臆病者で何が悪い!
4. 戸惑いから始まる関係
「今、確かに頷いたな? 」
え――?
「あ、あのっ――」
「頷いた。間違いない。取り消しも不可だ」
私、なんで素直に頷いちゃってんの――?
「いや、あの……ちょっとっ」
「今日のところは」
何か言葉を発しようにも私の声なんて挟ませず。すぐさま抱き締められていた熱が離れて行き、生田が私を見下ろした。
「とりあえず、内野の家まで送って行く」
「は、はい?」
いや、いや、いや、いや。ちょっと待ってください!
「いったん落ち着こう。ここは、落ち着きましょうよ。ただ職場から家に帰るだけだし、送るなんてそんなことは必要ないわけで」
焦ったあまり、言葉遣いがおかしくなっている。一人身振り手振り、大騒ぎだ。それなのに、目の前の男と来たら。
「俺はいたって落ち着いている」
冷静にそんな答えを返して来た。つい数十秒前に好きだとかなんとか言った人とは別人のような顔で私を見ている。
「だったら――」
「ここであんたを野放しにしたら、全部なかったことにされそうだからな」
「そ、そんなことは……」
あるかもしれない。
「じゃあ、行こう」
「ちょ、ちょっとお待ちを」
その嫌味なほどの長い足のせいで、ずんずんと進んで行ってしまう。
「あんたの家、三田線でいいんだよな?」
「うん」
突然こちらを振り返ってそう聞いたかと思ったら、また前を向いてしまった。
そうじゃなくて――っ!
「生田、私――」
まだ、心の準備が――っ!
私の呼びかけなんて一つも聞き入れてもらえないまま、今、私は都営地下鉄三田線の車内にいる。
地下鉄のドア付近にとりあえず立ち、そのすぐ横に生田が。私はまるで、公共交通機関を使って警察に連行される途中の容疑者のようで。鋭い監視の目がさっきから絶えない。
いつ逃げ出すかと、警戒しているのだろうか。腕を組んでただひたすらに私を見ている。
無造作っぽいけどきちんと整っている生田の前髪から、眼光鋭い視線が突き刺さる。当然、そんな視線を真っ向から受けて立つほどの強い気持ちもないので、そっと視線を下に向ける。
これ、家まで送って来て、その後どうするつもりなんだろう……。
――俺の女になっとけよ。こくん。
これって、つまり、私、生田と付き合うことになったということ?
私、生田と付き合うの?
誰かにこっそり教えてもらいたい。