臆病者で何が悪い!


まだ、突然過ぎて全然理解できない。

えっと……付き合うって、普通、何するんだっけ。

"普通"って、一般論でしか考えられないのがカナシイけど……。

付き合うとは――。
定期的に会う。電話とかメールとか、そういうのをし合う。会った時には、それなりのスキンシップ。スキンシップ――。

勝手に浮かび上がるいかがわしい映像のせいで思いっきり頭を振る。

20歳もとうに過ぎた男女が、密室で繰り広げること――。

そりゃ無理。無理中の無理!

だって、私、この数年他人に裸なんて見せたことないし。注意深く手入れする必要もなかった。いや、そういう問題じゃない。

目の前の人と、そういうことが出来るのか――?
あれ? この自問自答、前にもした?

いや、私が出来るかどうかなんてどうだっていい。

生田ほどの男が、私と、し、したいと思うっていうのか?

でも、だ――。
何の間違いか、生田が、この私を好きだと言った。実は、この事実が一番衝撃だった。

思いっきり地下鉄の床を見ていた視線を恐る恐る生田へと向けてみる。
その顔は、ちょうどいいことに何の景色も見えていないはずの窓の外に向けられていた。シャープな顎のラインに、すっと高くて筋の通った鼻がついてる。肌なんて私よりきれいじゃん。背は高いし、体形はスーツが映えるちょうどよい胸板を持つスマートさで。
顔は、どことなく冷たさの感じる知的クール系とでも言おうか。生田の顔を見れば見るほど、現実味がなくなって行く。

なんでだ? どうしてだ? 
そもそも本当のことなのか――?
そもそも私自身は、生田のことをどう思っているの――?

そんなこと、考えたこともない。自分の感情さえよく分からないでいるのに、こんなこといいのだろうか。いろいろと緊急に考えなければならないことがあるのに、思考があちらこちらへと飛んでまったくまとまらない。

「あんたの駅に着いたぞ」

いつの間に――?

結局何の考えもまとまらないまま、私のマンションのある駅に着いてしまった。見慣れた駅のホームなはずが、初めて降りた駅かのように見えて。

なんでそんなことを感じるのか。
男とこんな時間に、二人でこの駅を降りたことなんてないからだ。

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