臆病者で何が悪い!


チャラチャラチャラチャラ~♪

うるさい。今日は休み。

チャラチャラチャラチャラ~♪

アラーム機能はお呼びじゃない! 

しつこいメロディに怒りが頂点に達する。

土曜日の朝は何にも誰にも邪魔されずに睡眠を貪る。それが働く私の至福の時なのに――!

「だから、今日は土曜日だっ!」

寝ぼけた私は、枕元に投げ出されたスマホを乱暴にタップしそう叫んでいた。

――。

やっと止まった。まったく、よくも睡眠を妨害してくれたな……。

(おい)

ん――?

(そんなこと言われなくても分かってるよ)

誰か、喋ってる……?

恐る恐るスマホを耳に当てる。

(もしもし)

「わあっ!」

ベッドの上で飛び退いた。これ、アラームじゃない。着信だ。それも、電話の。

(なに、どうした?)

スマホの向こうから心配そうな声が聞こえて、慌てて言葉を探る。

「な、なんでもない。失礼しました」

(もしかして、まだ、寝てた?)

心配そうな声のトーンが一気に変わる。
そうだった。朝に電話するって言っていたことを思い出す。その声の主は生田だった。

(今、9時だぞ?)

9時なら、いつも寝ている時間だ。まさに爆睡中。

「ご、ごめん。週末はいつも、朝は起きるの遅くて」

電話越しの生田の声が、どこかくすぐったい。

(それは、悪かったな。さすがに9時ならいいかと思ったんだけど)

「……ううん、いいよ」

電話で話すのに慣れていないからだろうか。なんとなく、会話もぎこちなくなる。

(あんたのことはずっと知っているのに、この番号使うの初めてだ)

「……確かにそうだね」

同期として出会った新人時代、皆で連絡先を交換し合ったんだっけ。
登録はしてあったけれど、使う必要性がまったくなかった。同期全員の連絡先の中の一つ。ただそれだけだった。

(それでだ。どうせ、今起きたんだろう? それなら……)

スマホの向こうではもう話題が変わっている。こちらはまだ寝起きの頭で思考にタイムラグがあった。

(二時間後なら大丈夫だろう。あんたの駅からなら……日比谷が出て来やすいな。じゃあ、日比谷に二時間後)

「え? 二時間後? 日比谷?」

(今すぐベッドから出て、支度しろ。じゃあな)

「は? え、ちょっ」

ツーツーツー。

切れてるよ。

ベッド脇にある窓からは、明るい太陽の光の筋がカーテンの隙間から零れている。どうやら今日は快晴のようだ。

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