臆病者で何が悪い!
週末のお昼、日比谷のとあるカフェ――。
ガラス張りの店内には、暖かい太陽の光は惜しげもなく降り注ぎ、秋の爽やかな気候を享受しまくっている。窓の外は、人通りも多く賑やかな通り。洒落た店が軒を並べる、まさに東京の繁華街。
そして、私の向かいには、私服姿の生田が座っている。
「あのさ、昨日から、いろいろ怒涛過ぎて。全然考える暇がないというか……」
「あんたに考える時間を与えると、事実と異なることばかり考えて自己完結しそうだからな。現実を分からせてるんだ」
そんな言葉を吐きながらコーヒーカップを手にして。もちろん中身はブラックコーヒー。長い足を組み、シンプルなのになんとなくお洒落なニットを着こなすこの男――。
イケメン過ぎる。
こうして同期としてじゃなく向かい合うと非常に緊張するんですけど。私、とりあえず家にある服から見繕って適当に着て来たけど、これ、大丈夫なの?
こんな風に週末に男と会うなんて、もうずっとないことで。いつも着ているような服、ジーンズにVネックのニットを選んでいた。
「まあ、ちゃんと約束の場所に来たことは褒めてやる」
「そ、そりゃあ、来るでしょ、普通」
「普通は、な」
それじゃまるで、私が普通じゃないみたいじゃない。生田の中の私は、一体どういうイメージなんだ。
「とりあえず、まずは認識を共有してもらう」
「え? 認識?」
なに? 会議でも始まるの――?
「あんたと俺は、付き合うことになった。男女交際だ。同期としてでも同僚としてでも友人としてでもない。他の一切の解釈も認めない」
法案作成か何か――?
「あ、あの……。お言葉ですが、官僚のセオリーとしては、後でどんな解釈も可能にするために必ず逃げ道を作っておくものでは……」
おそるおそる意見してみるも。
「あんたに逃げ道なんて作らねーよ」
速攻却下される。
「とにかく。まずは、自分が俺と付き合っているんだっていう意識だけは持ってくれ。最初はそれだけでいいから」
生田が手にしていたコーヒーカップを手に置くと、そう私に言った。
どうして、生田は私のことなんて――。いくつもの疑問点が浮かび上がるも、結局私はまた頷いていた。
「じゃあ、この後だけど、映画でも観とく?」
「なんか、デートみたいだね」
「デート、だろ?」
そっか。そうですよね。
生田が作るこの流れに乗ってしまってもいいのだろうか。でも、何も考えずにいたい自分もどこかにいる。