臆病者で何が悪い!
カフェで軽く昼食を取り、日比谷駅近くの映画館へと向かった。10月末の快晴の日は、歩いているだけで気持ちが良い。人で賑わう通りを歩いていると、誰も彼もが笑顔に見える。
「内野は何が観たい?」
映画館の入り口に掲示されている上映一覧を前に、生田が私に問い掛けた。真っ先に飛び込んで来たのは、最近公開され始めた恋愛映画。私はとにかく恋愛モノが大好きなわけで、少し気になっていた作品だ。
――おまえ、そんなの観たいのかよ。少しは空気読め。男と恋愛映画観ようなんてどうかしてる。
元カレに言われた言葉が頭を過る。今思えば、納得の発言。ただの遊び相手の女と恋愛映画なんて、そりゃあ観たくもないよね……。
嫌なことを思い出してしまったのもあるけれど、生田もどう見ても恋愛映画に興味があるような人間には思えなかった。
「私は別になんでも。あの『死んだのはアナタ』でもいいよ」
明らかにグロテスクなホラーもの。本当はそういうの大の苦手だけれど、男の人ってああいうの好きそうだし。とりあえず指さしてみた。
「本当に?」
生田が驚いたように私を見つめた。
「ま、まあね」
「あれ、ホラー映画だけど?」
「分かってるって」
視線が痛い。まじまじと見つめていたかと思っていた生田の目の色が少し変化する。
その目は、すごく、嫌な予感がする。
「……もしかして。あんたも実は乗り気になって来た?」
「乗り気って……?」
ニヤリとした生田の目が私を捉える。
「怖い場面で、俺に飛びつきたいとか」
「んなわけないでしょ!」
そんなことこれっぽっちも思っていない。意地悪な視線がいたたまれなくて、私は騒ぎ立てた。
「だったら、無理しないで本当に観たいものを言えよ。あれとかどう? 『必ず僕を好きになる』」
「……えっ?」
生田が指さしたものは、まさに、私が観たいと思っていたもの。ベッタベタな恋愛ものだ。