キミが可愛いわけがない
「風邪ひいてるみたいだけど、大丈夫。俺がそばにいる」
恥ずかしいことを母さんに言ってしまったと思ったけど、俺の体はもう玄関のドアに手を伸ばしていた。
『あら…大変っ。芽郁、ちゃんと──』
「わかってるから」
俺はそう言って電話を切ると、ズボンのポケットに携帯を突っ込んで急いで家を出た。
ユズ、大丈夫か?
まさか、玄関で倒れていたりしてねぇよな?
完全にあとはユズのお母さんに任せれば大丈夫だと安心しきっていた。
ったく。
外の風はすごく強くなっていて、横殴りの雨が頬にあたって痛い。
傘なんてなんの役にも立ちそうになく、俺は一瞬でずぶ濡れになりながら、ユズの家の門を開けた。
ユズ、無事でいてくれよ。
ちゃんと、自分の部屋まで辿り着けていてほしい。