キミが可愛いわけがない
芽郁が前進していくことに、イメージでは喜べているはずの私だったのに。
実際そうなると、なんだか寂しくて、焦ってしまうな。
目の前にしゃがんで座る芽郁の顔をちゃんと見ることができない。
「ユズ?…大丈夫か?まだ痛い?」
普段は鋭い目つきで女子に圧をかけるくせに。
こんな時は、包丁で指を切ったお母さんを心配する小さい子供のような瞳で、私の顔を覗き込むんだもん。
負けそうになる。
手は正直、もうどうってことない。
「…ちょっと、ショックだった」
「え?」
「好きな子できたら、報告くらいしてくれると思った」
「…え、ユズ?」
「しかも若松さんとか…」
「ちょ、ユズ!すげー勘違いしてるよ!」
芽郁は、私の頬を両手で挟んでから立ち上がってそう言った。