私のご主人様Ⅳ
「琴音」
暁くんに呼ばれ、今度こそ前を向く。
後ろにある真実から目を背けるように。
「それでいいんだよ。…お前は、あいつとは違う」
頭に乗った手は温かい。暁くんを見ると、後ろを振り返る素振りなんかなかった。
部屋に戻るなり入ってきた信洋さんは、困ったような顔をしていた。その原因は自分にあることくらい聞かないでもわかった。
「ここちゃん、とりあえず見なかったことにしてくれない?」
「…」
「もちろん、傍にクラスメイトがいるんだし、完全に忘れるとかは無理だと思う。でも、ここちゃんに関わることはないし、関わって欲しくない」
はっきりした物言いに反論なんかできない。というより、反論なんかさせない言い方だ。
これはもう決定事項なんだよね…?
頷くと信男さんはごめんねと言いながら早々に部屋を立ち去っていった。
すれ違うように部屋に戻ってきた奏多さんはいつもの顔で、怖い顔はもうしてなかった。
奏多さんにまで念を押されるように高崎さんに会わないようにと言われてしまう。