私のご主人様Ⅳ
唯一の連絡手段は、誰の連絡先も登録されていないスマホのみ。
それが鳴った時は、無事に抗争が終結した時か、それとも逃げろという敗北を宣言する時のみ。
そのスマホは必ず誰かいる居間のテーブルに置かれている。
ただその連絡が抗争の終結であること、季龍さんたちの無事だけを祈って過ごすことしかできない。
「…琴音、お前は」
「なーに陰気くせぇ雰囲気出してんだぁ?」
何かを言いかけた暁くんの言葉を遮ったのは、様子を見にいた平沢さんだ。
平沢さんは煙草を吹かしながら台所に入ってきて、臭み抜き中の獅子肉を満足そうに見つめた。
「琴音は覚えがいいなぁ。俺がもっと若かったら嫁に欲しいぜ」
「?」
「平沢さん、何言ってんすか」
「あ?ははーん?暁、お前狙ってんだな?」
「なわけないじゃないですか」
平沢さんのニヤニヤした顔に暁くんは本気の軽蔑の目を向ける。平沢さんは怯む様子もなく煙草の煙を吐き出した。
「ま、俺の娘は俺が認めた男以外にはやらんけどな」
そう言いながら頭を撫で回される。いつの間にか私は平沢さんの娘になっていたらしい。