私のご主人様Ⅳ
「季龍」
その場に響いた声に全員が道を開ける。
誰の手も借りず、廊下の真ん中で仁王立ちする親父は、やはり極道の頭なんだろう。その姿は威厳に満ち、この場にいる全員を惹き付ける。
くつを脱ぎ、親父の前に行く。目の前で膝をついた。
自然に、そうするべきだと体が動いた。
「奪われたのか」
「…はい」
「お前が、そばにいながら?」
「…はい」
容赦のない問いかけに、己の不甲斐なさを突き付けられるようだ。
「…季龍」
顔をあげる。直後、頬に走った衝撃は決して首が持っていかれる威力なんかなかった。だが、それ以上に精神を抉る。
「バカ野郎!!好きな女1人、守れねぇクズにした覚えはねぇぞ!!!」
「っすみませんでした!!」
「謝んのはわしにか!?今すぐ琴葉を取り戻せ!!」
「っはい!」
親父の怒鳴り声ははじめて聞いた。だから、どれだけ親父が悔しさを、苛立ちを抱えているのか分かる。
そして、琴音を取り戻すことに全力をとすことが決定した。