私のご主人様Ⅳ

「季龍」

その場に響いた声に全員が道を開ける。

誰の手も借りず、廊下の真ん中で仁王立ちする親父は、やはり極道の頭なんだろう。その姿は威厳に満ち、この場にいる全員を惹き付ける。

くつを脱ぎ、親父の前に行く。目の前で膝をついた。

自然に、そうするべきだと体が動いた。

「奪われたのか」

「…はい」

「お前が、そばにいながら?」

「…はい」

容赦のない問いかけに、己の不甲斐なさを突き付けられるようだ。

「…季龍」

顔をあげる。直後、頬に走った衝撃は決して首が持っていかれる威力なんかなかった。だが、それ以上に精神を抉る。

「バカ野郎!!好きな女1人、守れねぇクズにした覚えはねぇぞ!!!」

「っすみませんでした!!」

「謝んのはわしにか!?今すぐ琴葉を取り戻せ!!」

「っはい!」

親父の怒鳴り声ははじめて聞いた。だから、どれだけ親父が悔しさを、苛立ちを抱えているのか分かる。

そして、琴音を取り戻すことに全力をとすことが決定した。
< 149 / 289 >

この作品をシェア

pagetop