私のご主人様Ⅳ

「さてと。んじゃあ、取り引きでも始めますか」

奏太さんは楽しそうにスマホを取り出し、操作を始める。

それを止めることも、逃げ出すことも出来なくてうつむいた。

どうすれば季龍さんたちに迷惑をかけずに済む?どうすればこの状況を覆せる?

…あ、そうか。なんだ、簡単だ。

私がいなくなればいいんだ…。

うまくやれるか分からないけど、舌を噛みきったら死ねる。それか、暴れるふりをして、その辺の人が持ってるナイフに飛び込めば…。

早く、やらなきゃ。早く、しなきゃ…。

比較的近い位置にいる人が手にするナイフが光る。失敗はできない。勝負は1回切りだ。

足に力を込める。今なら、行けるっ!

『琴音に手出したら、殺す』

「っ…」

奏太さんのスマホから漏れてきた声に体が動きを止める。

早く、しなきゃいけないはずなのに。

どうしよう。体が、動かない…。
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