私のご主人様Ⅳ
「で、どうする?俺たちとの取り引きに応じてくれるの?」
『………分かった。言う通りにする』
季龍さんの返事に十分な間があったのは、多分同じ懸念を抱いたから。
でも、NOという答えが出せるはずもなく、仕方なく選んだ答えにも聞こえた。
「じゃ、2人と落ち合えたら人質の1人は解放する。この番号でまたかけるから。期限は明日の正午。いいね」
『あぁ。2人に手出すんじゃねぇぞ』
「分かってるって。それじゃあ、また」
奏太さんは電話を切り、肩の力を抜く。向けられた視線にはもう、悪意なんか感じなかった。
でも、奏多さんは険しい表情を崩さなかった。
「琴音ちゃんを解放しろ」
「…兄貴、分かってんだろ。解放するのは兄貴で、お姫様じゃない」
「っなら、琴音ちゃんをいつ解放するんだ!!」
さきほど、季龍さんが言えなかったその言葉を口にした奏多さんに奏太さんの視線は逸らされる。
それが意味するのは多分、私がまだ取り引き材料とされているから…。
「…俺たちには出来ない」
「はぁ!?」
「…ごめん、兄貴。また説明するから」
一瞬だった。奏多さんの背後に立っていた男性が、奏多さんの首にスタンガンを押し当てた。
電気の走る音が響いた直後、奏多さんの体は倒れる。
そして、目の前に屈んだ奏太さんは申し訳なさそうな顔をしていた。