私のご主人様Ⅳ

「琴音?…おい、琴音!」

呼び掛けても、肩を揺さぶられても一切反応しない琴音に違和感は確信に変わる。

周囲には人の気配がない。琴音だけ置いて逃げたのか。いや、ここで琴音を捨てる意味がない。

人質を手放す理由は…。

「ぁ…」

掠れた声が耳を掠める。琴音は顔をあげ、暁と奏多を見上げているように見える。

だが、その目が一瞬のうちに見開かれた。

「っあぁぁああああ!!!!!」

「っ琴音ちゃん!?」

「琴音!落ち着け!!」

突然絶叫を上げた琴音に場の空気が凍りつく。落ち着かせようとする奏多と暁だが、琴音は収まるどころか暴れ出す。

…遅かった。

全員の頭によぎったのは恐らく同じ。

救い出すのが遅すぎた。間に合わなかった。

目の前に突きつけられた事実に、すぐには体は動かなかった。ただ、暴れ、叫び続ける琴音を見ていることしか出来なかった。
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