私のご主人様Ⅳ
肩を叩かれた衝撃で我に返る。
やけに息苦しい。首を押さえると、少しだけ汗ばんでいた。
「時間です」
冷静な医者の声が響く。
いつの間にか、約束の5分を過ぎていたらしい。
まだ、琴音に触れていない。…いや、俺の足は病室にすら入っていなかった。
琴音に近づくことさえ、出来なかった…。
「出てください」
「…」
もう少しだけ。せめて手だけ握らせてくれ。せめて、一言言わせてくれ。
そう、言うことも出来たはずなのに。
俺はなにも言えなかった。
ただ、逃げるように琴音から目を背け、集中治療室を後にした。
「明日も面会できます。条件は今日と変わりません」
「…」
医者がなにか言うのもまともに聞けず、歩き出した。