私のご主人様Ⅳ

「若…?」

「ッお兄ちゃん!!」

その場の不穏な空気を打ち壊すような声が響く。

季龍に向かって駆け寄って行った梨々香の目には涙も浮かんでいるようだった。

しかし、その喜びに満ちた顔も、わずかに浮かんだ涙も、季龍に向かって伸ばした手が届かないうちに消える。

兄をよく見てきた妹だからこそか、季龍の放心状態にすぐ気がついたらしい。

「お兄ちゃん?…ことねぇに何かあったの?」

“ことね”の言葉に反応したように季龍の肩が揺れる。その反応に梨々香の表情は一瞬のうちに不安に満ちた。

「若、おかえりなさいませ。旦那様がお待ちです」

梨々香が口を開く前に、いつの間にそこにいたのか田部が季龍をまっすぐに見つめていた。

誰も動けない中、季龍はくつを脱ぎ梨々香の頭をひと撫ですると田部のあとに続いた。

信洋が慌ててそれに続く。
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