私のご主人様Ⅳ
「なぁ、ガキ。てめぇは何を勘違いしてんだ?」
「は?」
「死が絶対的な罪の贖いだと、本気でそんなこと思ってんのかと聞いてんだ」
平沢の問いに季龍は押し黙る。
死は命の終わり。命の終わりということは、この世から消えるということ。それ以上に厳しい贖いなどあるのかと季龍は本気で悩む。そんな季龍の思考を読んだ平沢はため息をつく。
「ガキ、それは“表”の思考だ。それでもいいだろう。でもな、俺たちは“裏”の世界の人間なんだよ」
平沢はタバコを庭に落とすとそれを踏みつける。火種は燃え尽き、そこにはただのゴミと化した灰と燃えきらなかった吸殻が残る。
「平気で命のやり取りが今、この瞬間にも起こってる。命が金になり、金で命が消える。そんな世界で、死は本当に罰なのか?罪を犯した奴にとって、“俺たち”にとって本当に怖いことはなんだ」
「…何が、言いたいんすか」
平沢の思考を季龍は読めない。…読めるわけがない。背負ってきたものが違う。
奪ってきたものが違う。裏社会に呪いのように漂う憎しみ、恨み、様々な悪と呼ばれるものを、見てきた量があまりにも違いすぎる。