私のご主人様Ⅳ
平沢は嗤う。その目は決して光を映さぬ、闇そのものだ。
「俺はな、組の報復で妻と娘を殺された。それも、目の前で。犯され、いたぶられ、殺してくれと叫ぶ2人が、衰弱死するまで、ずっと、ずっと。目の前で見せつけられた」
「ッ…」
「え…」
言葉を失う季龍と信洋に平沢は嗤う。
「死にたくなるほどの恐怖を知ってるか?愛するものが目の前で傷つけられるのをただ見ることしかできなかった絶望を知ってるか?死ぬことさえ許されない罪を、お前らは知らねぇだろ」
立ち上がり、部屋に足を踏み入れた平沢の周囲の気温が下がったような感覚に支配される。
まるで生きながらに死んでいるような、そんな訳も分からない思考が頭をかすめる。
平沢の気に完全に飲まれた季龍と信洋は、自身の息が止まっていることにすら気づかない。
「死は場合によっちゃ解放だ。恐怖から、絶望から、生きる希望を断たれた奴にとっちゃ死は望みだ。…だってそうだろう?死は、己の終わり。息をすることも、思考することもできなくなっちまうんだからな」
平沢が近づいてくるごとに、感じるのは死。体中が恐怖に絡み取られていくように、身動き1つ、息さえも止まってしまう。