私のご主人様Ⅳ

緩慢な動作で季龍の前に立った平沢は嗤う。

「お前の怒りはその程度なのか?お前の想う女に対する気持ちは、あいつの死で報われんのか?」

「…お、俺…は」

「あいつが琴音にした仕打ちは、あいつの命程度で贖えるのか?お前も見ただろ。狂いに狂っちまった琴音を」

季龍の頭に過ぎったのは、奇声を上げ、暴れた琴葉の姿。

生きる希望を失ったような。真っ黒に染まった瞳。恐怖に歪んだ顔。手を離せば、こぼれてしまいそうな、命のはかなさを…。

「俺は許さねぇよ。琴音の恐怖はあいつの死程度で贖えるわけねぇだろ?なのに、いいのか?簡単に死なせちまって」

「ッ…」

「琴音が味わった恐怖を、絶望を、味あわせてやんなきゃ、気が済むかよ。いや、それでも足りねぇ。あいつには、死にたくなるほどの生き地獄を見せてやらなきゃいけねぇ。違うか?」

「…それ、は」

「普通なら、そんなことできねぇ。だから、死が絶対的な罰であるというように、死罪が極刑だと認識がこの日本にはあるだろ。でもな、俺たちの住む世界は違うだろ。同じだけの苦しみを、痛みを、恐怖を、絶望を、味あわせてやれる。死を願いたくなるほどの、死が解放となるほどの生を味あわせてやれる。…違うか?」
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