私のご主人様Ⅳ
平沢が語るのは、“裏”の世界の姿。
全ての人に平等に与えられる人権を無視した世界だ。
その世界の全容を季龍が知るには若すぎた。そして、闇に染まりきれていない季龍の幼さがそうさせた。
そして、平沢の提案は季龍の何かを崩し去ってしまう罠であることに彼は気づいていない。この選択は、ある種の境界。それを踏み越えれば、季龍は完全に“何か”を失うのだ。
「平沢、ならお前はどうするというんだ」
その空気と断ち切ったのはそれまで黙っていた源之助だ。
その時、平沢が舌打ちしたのに気付いたのは源之助と田部だけ。だが、平沢はすぐにそれを隠して口角を上げた。
「決まってんだろ。死にたくなるほどの地獄を見せてやるよ。あいつが寿命の尽きるその日まで、な」
残忍な笑みを浮かべた平沢に季龍と信洋は無意識に恐怖した。
彼の発する気は殺気ではない。それは、あまりにもドロドロとしていて、周囲の空気さえも変えてしまうほどの狂気だ。