私のご主人様Ⅳ
「殺さないと?」
「あたりめぇだ。…琴音は俺の娘も同然。そいつをいたぶった罪が、死罪程度で済まされると?生き地獄を見せてやるよ。生きてることを呪いたくなるほどの地獄をな」
源之助はしばらく平沢を見つめていたが、やがて息をつく。
「平沢、この件はお前に任せる」
「…承知しました」
源之助の決定に平沢は一瞬不服そうに目を細めたが、それはすぐに隠される。
源之助に頭を下げた平沢はすぐに部屋から立ち去って行く。
足音が遠のいていくのを源之助は最後まで確認し、それが完全に消えた時ようやく動けずにいる季龍と信洋に視線を向けた。
「季龍」
「…親父、俺は」
「平沢のことは気にするな。…そして、その選択ができなかったのは当たり前だよ。お前にはまだ見せていない世界だからな」
「ッ…」
その言葉に季龍は自覚する。自分は源之助に守られている。名前こそ若頭と肩書きを与えられているが、それは名前だけだ。
季龍は知らない。裏社会の全容を、その本当の恐ろしさを。
そして、冷徹と言われるその裏で甘ちゃんだと罵られていることを…。