私のご主人様Ⅳ
『季龍さん』
「ッ…」
目の前に血にまみれた琴音の姿が浮かぶ。
何か言っている。…なのに、何もわからない。琴音、お前はあの時、何を伝えたかったんだ…?
『うそつき』
「永塚さん、時間ですよ」
医者の言葉に現実にいきなり引き戻される。
琴音に視線を落とすと、変わりなく眠ったままだった。
…なら、今のは、一体なんだ…?
頭に響いたはずの言葉。それは、あの時の言葉だったのか…?
「永塚さん」
「…分かってる」
琴音から手を離す。昨日は恐ろしくて触れられなかった。それどころか、傍にいることさえつらかった。なのに、今はこんなにも離れがたい。
琴音の顔を目に焼き付け、少しずつ離れていく。病室から出てようやく踏ん切りがついた。
名蔵に導かれるままに来た道を戻り、集中治療室を後にした。