私のご主人様Ⅳ
「…ですが、今の話はすべて彼女が目覚めた場合に起こりうる障害です」
「…琴音がこのまま目覚めねぇとでも言うのか」
「そうです。彼女の出血量は生命活動を維持する最低限のものでした。このまま、植物状態になり、一生目を覚まさないことも十分に考えられます」
「可能性の話だろ。琴音は必ず目を覚ます」
「医者としての見解を説明しているだけです。…あなたの希望論を支持することは出来ない」
はっきりと壁を作られる。目覚める可能性を信じたいと言うのは、きっとどんな患者の家族も同じ。
だから、こいつはあえて悪い方向を口にする。
家族と同じように希望論を口にすることもできるはずなのに、それをしないのは、医者として無責任なことを言うことは出来ないという明確な意志か…。
いずれにせよ、この医者は、祈りとか、思いとか、そんな非科学的なことを口にするタイプではないらしい。