私のご主人様Ⅳ

車が病院の駐車場に入る。車を降り、病院内に足を踏み入れる。

見慣れた光景。嗅ぎ慣れた匂い。いつもと変わらないロビーを抜け、エレベーターホールへ足を進める。

いつもと違うのは、1人で行く道を今日は梨々香、信洋、平沢と進むこと。そして、向かう先が3階から5階に変わったこと。

5階で降り、エレベーターホールを抜け左へ。ナースステーションを中心に病室への扉が並ぶ。

ナースステーションの丁度真裏の位置にある病室は個室だ。その中の1つ。530室。病室番号の下には『葉月琴音』のネームプレートがあった。

梨々香が息を飲む。軽くノックをしてドアを引くと窓から差し込む日の光が当たる位置で、ベッドに横たわる琴音の姿が見えた。

集中治療室で施されていた処置はほぼそのまま。それでも、日の光に当てられているせいか、いつもより顔色がよく見えた。

「琴音」

「…」

「今日は俺だけじゃない。久しぶりだろ?」

返事が帰って来ない琴音に声をかけ始めたのは1週間前。

一方的な会話にはまだ慣れねぇ。それでも、声をかけることでいつか不意に返って来るんじゃないかと期待する自分もいた。
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