私のご主人様Ⅳ
琴音の頭を軽く撫でる。ほんの少し、ほんの少しだけ琴音が微笑んだように見えた。
「お嬢、入らないの?」
「…」
信洋の声に振り返ると、梨々香が病室に踏み込めずにいた。まるで、集中治療室にいる琴音に初めて面会しに行った俺と同じように。
見開かれた目は琴音を凝視していて、ショックを受けていることなんか一目瞭然だった。
「大丈夫。ここちゃん眠ってるだけだよ。ちゃんと生きてる」
「嘘」
「お嬢…」
「嘘。…なんで?ことねぇ、本当に大丈夫なの!?こ、こんなの、大丈夫なわけないじゃん!!」
叫んだ梨々香の声は病棟に響き渡る。その声に患者も、家族も、巡回していた看護師でさえその足を止める。
咄嗟に梨々香の手を引いて病室に入れる。意図を察した信洋が慌てて入って来て、平沢も1歩前へ進むと、ドアを閉める。
梨々香は怖がるように琴音から視線を逸らす。持って来た花が曲がってしまっているのが分かる。
梨々香の不安も分かる。確かに人工呼吸器に、常につけられた心電図。それだけでも十分恐怖を煽られる。
だけど、それは間違いなく琴音が生きている証明だ。