私のご主人様Ⅳ

「琴音が撃たれた時のこと、覚えてるか」

「おおよそは。…あの時、ここちゃんはここで横になっていて、目を覚まして若と向い合わせに座っていた」

「そして、恐らく琴音は奴に気付き咄嗟に若を庇った…。でも、おかしいとは思わねぇか?」

「俺もそう思います。どうして奴は“ここちゃんに気付かれるまで引き金を引かなかったのか”」

ずっと引っ掛かっていた。どうして奴はあのタイミングで撃ったのか。どうして奴はここちゃんに居場所を知られたのか。

奴が本当に若を狙っていたのなら、撃つ隙はバカのようにあった。

それこそ、若はあの時あの場からほぼ動いていなかった。奴が若の心臓に、脳に、狙いを定める時間は十分にあった。

なのに、なぜ奴は“撃たなかったのか”。
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