私のご主人様Ⅳ
病院内の混乱に乗じて外へ出る。
平沢の姿を認めたのか、駐車場に静かに止まっていた黒の8人乗りの車のドアが開く。
「平沢さん」
「とにかく入れろ。琴音が限界だ」
信洋を抑え、平沢は琴音を抱いたまま乗り込む。
車の中に用意させていたのは、COPDの患者が日常使いする酸素ボンベ。人工呼吸器と繋がったそれを琴葉の口に当てる。
少し顔色の悪い琴葉の頭を撫でた平沢は安堵の息を吐いた。
その間に助手席に乗り込んだ信洋は心配そうに振り返ったものの、息をついて正面に向き直した。
「なんだ、あいつら」
「多分、黒幕の手駒だと…」
「事前に分かんなかったのか」
平沢の責める言葉に信洋は口をつぐむ。
生命維持装置の搬入や、琴葉を屋敷に連れてきたタイミングで診てくれる医者の手配など、琴葉を無事に受けいるための準備に追われていた。