私のご主人様Ⅳ
その時、不意に鳴り響いたのは電子音。
全員の視線が向いたのは、今まで1度たりとも鳴ることがなかったスマホだ。
待ち焦がれていたはずのその瞬間に誰もが反応できなかったのはあまりにも唐突だったから。
しばらく誰も動けずにいたけど、我に返った田部さんが源之助さんにスマホを手渡す。
スマホを持つ源之助さんの動きをその場にいた全員が固唾を飲んで見守る。
通話ボタンが押され、着信音が途切れる。スマホを耳に当てた源之助さんは、ふっと笑みを浮かべる。
「季龍だな。終わったのか」
相手の声は聞こえないのに、誰もが息を潜めて耳を澄ます。
源之助さんは何度か頷いた後、スマホを離し、梨々香ちゃんに渡す。
「お兄ちゃん!?ほんとに、お兄ちゃん…?」
スマホを耳に当てる前に声を出した梨々香ちゃんは、徐々に涙を浮かべて笑った。
その様子に、安心してそっと席を立つ。
積もる話もあるだろうし、私が聞いてはいけないことだってあると思う。心置きなく梨々香ちゃんや源之助さんが季龍さんたちと話せるようにしないと。